『踊る大捜査線』にみる組織とリーダーの醍醐味(その九)
※仕事があるのが最大のモチベーション
警察という巨大なピラミッド組織の中には小さなピラミッドがいくつもあって、青島は自分の属するピラミッドの上に位置するピラミッドを見事に結び付けた。
この役割をミシガン大学のレンシス・リッカ―トという経営学でもよく知られる社会心理学者は、「連結ピン」と呼びました。
連結ピンは上に対する影響力を持つが故に下に対する掌握力も持つ。
ミドルマネージャーの役割として非常に重要です。
青島も前作までは、ボトムアップで下から文句を言う立場でしたが、五年も経てば、成長していないとおかしい。
このシーンで五年の成長を見せ、青島が現場の実質的なリーダーになったことを示したのです。
ところで、青島は始め女性管理官に所轄の仕事を否定され、刑事という仕事に対するモチベーションを失いかけます。
これをいかに持ち直すか。
モチベーション・マネジメントをどう考えますか?モチベーションをもう一度、何かで持ち上げるとすれば、やっぱり事件が起こるしかないよねと。人の励ましより何より、事件が起きてさあ行くぞと言われて立ち上がる。
仕事のモチベーションは仕事でしかつくれない。
モチベーションは仕事の意欲なのに、とかく作業条件とか人間関係とか別問題にすり替えようとする。
ワークモチベーションですから仕事そのものでわくわくさせることができるかどうかです。
ただ、刑事ものの場合、仕事のモチベーションは、すごく難しい問題だなとも感じました。モチベーションを上げるには、事件が起こるしかない。
一方、警察が掲げる理想は、世の中からすべての犯罪がなくなることです。
でも、犯罪者が一人もいなくなったら、自分たちの仕事はなくなり、職を失う。いったい、警察官って何なんだろうと疑問に思って、一度、真面目に現場のお巡りさんと話したとき、「そんなの考えている暇ないです」「考えるより先に事件、起こりますから」と一蹴されました。ああなるほど、彼らの中では事件とはとにかく起きるものなんだと思っていることが分かりました。
だから、『踊る』では、事件も犯人も単なる記号として扱うことにして、事件の背景とか、犯人の心象風景などには踏み込まないルールを決めたんです。
それがまた、警察のリアリティーを浮き上がらせることになったのです。