天使の分け前・ANGEL’S SHARE
この話は、スコッチ・ウィスキーの愛好家である私の先輩から聞いたお話しです。
一般に、ウィスキーは樽に詰めて数年から10数年、中には30年も貯蔵するものがあるそうです。
樽の素材としては、北米やヨーロッパ産のホワイトホークが最も適しています。
樽の木目から入ってくる空気を吸収して、原酒は熟成していきます。
ホワイトオークの木目の通気性が、他の材木に比し、一番「程」良いとされています。良すぎても悪すぎてもダメ。「マックシェイク」のあの「程良い」スピードと同じ考えです。
(「マックシェイク」のストローの太さは、力いっぱい吸っても遅いスピードでしか口に入ってこないように作られています。人間が物を吸い込む時、最も美味しく感じるスピードは、赤ちゃんが母乳を吸うスピードだそうで、マックのストローの太さはそのスピードに設定されています)
ウィスキーの琥珀色や独特の香りは、樽の成分が溶け出したものですが、ホワイトオークの色香が一番すぐれているそうです。
樽の内側は軽く焼いてあり、そのため成分がよく溶け出し、生木臭が無くなり琥珀色もより鮮やかになります。
樽に空気が入ってくるのは良いのだけれども、原酒の水分やアルコールが、木目から逃げてきます。
1年間に、2~3%ずつ原酒の量が少なくなるため10年置くと20%以上が無くなることになります。
日本の業界ではこの減少分を「貯蔵欠減」と言っているそうですが、ウィスキーの故郷スコットランドでは「天使の分け前」すなわち「ANGEL’S SHARE」と呼んでいます。
「どうぞ神様!分け前を差し上げますので、いい香りと味に仕上げて下さい!」という気持ちが込められています。樽の表面をコーティングしようものなら、減少分は少なくなるが「まろやかな」熟成が出来ず値打のないものになる。「天使への分け前」をけちってはならないのです。
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それにしても、20%という左脳的数字を「天使の分け前」という右脳的表現の出来るスコットランド人特有の知恵や洒落は大したものだと思うのですが、如何でしょうか。