でも、同じボタンを押すのは?(全3編)その1

 楽天主義も悲観主義も一つの思考習慣によるものである。楽天家の人生が楽しく、悲観主義者の人生が暗いのは、当然である。どちらもそれを望んだからである」

J・マーフィー(アメリカの思想家)

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学生時代に、工場でアルバイトしていた人に聞いた話です。

担当していたのは、電気製品の工場の流れ作業で、組立作業の職場であった。

現場にはいくつかの班があり、班単位で休憩したり、食事に行っていた。

午前と午後に、ほんの少しだけの休憩時間があり、トイレに行ったり、休憩室で、ジュースを飲んだりして身体を休めていたという。

同じ班に、彼より少し年長のおじさんがいた。

その人とは、アルバイトを始めたのが同時期だったこともあり、よく並んで座り、いろいろと話をしたものである。

おじさんは、毎日、午前も午後も休憩時間には、同じ種類の缶コーヒーを飲んでいた。休憩室にある、自動販売機で買った缶コーヒーである。

あまりにも毎回同じものなので、ある時尋ねてみたそうだ。

‥‥‥‥‥

「その缶コーヒー、よっぽど好きなんですね」

ところが、おじさんの返事は、意外なものであった。

「ああ、この缶コーヒーか?俺はあんまり好きじゃないよ。

甘ったるいのは苦手なんだ・・・」

「じゃあ、どうしていつも同じコーヒーを飲んでいるの?」

「どうしてって・・・どうしてだろうなあ・・・」と、つぶやく。

よく聞いてもると、おじさんは、自動販売機にお金を入れると、

ついつい一番左にあるボタンを押してしまうというのである。

クセのようなもので、気がつくと、そのボタンを押してしまっているそうだ。

自動販売機には、微糖やブラックのコーヒーもあるのに、おじさんは、

いつでも砂糖がたっぷり入った缶コーヒーを、買ってしまっているようである。

それ以来彼は、おじさんが、その缶コーヒーを飲んでいるところを見ると、からかうようになった。

「あ、またそのコーヒーを飲んでいる!」

「あれっ?甘いのは嫌いじゃなかったの?」

そのおじさんは、少し悔しそうに首をひねる。

「本当だ!またこのコーヒーだ!」

「何で、いつもこんな甘いのばっかり飲まなきゃいかんのだ!?」

自分自身でも、何故そうなるのか分らないと、頸をかしげる。

結局、数ヶ月後に、彼が契約期間満了で退社するまで、おじさんは、毎日、2回の休憩時間のたびに、あまり好きでではないコーヒーを飲んでいた。

それからかなりの年数が経つが、ひょっとしてまだ、その会社にいるのなら、

今も、同じ甘いコーヒーを飲んでいるかも知れない。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥

明日は、ここから、始まります。

おじさんは、そのコーヒーは、それほど好きではなかったのである。

でも自動販売機の、同じボタンを押せば、いつでも同じものがでる。

当たり前(※)のことである。

もし、違うコーヒーを飲みたければ、違う位置にあるボタンを押せばよい。

これも当たり前と言えば当たり前のことであることに間違いない。

人生で、何かにつけて、同じ選択を繰り返していれば、いつも同じ生き方になる。

当たり前のことである。

もし、違った生き方をしたければ、違ったことをしなければならない。

新しい、選択をし、いつもと別の行動をする。

これだって、当たり前と言えば、当たり前のことである‥‥

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自動販売機の場合、違うボタンを押したら、違う味のコーヒーが楽しめる。

人生も、少し変えてみたいと思うなら、何時もと違うことをやってみる。

そうすると、何時もと違うことが起きる。当たり前のことですよね、

それでは、みなさん、素敵な一日を  「キュ」

その2は、「当たり前」が沢山出てきます。