「おもいやりのあるウソ」をつく(全2編)その1

これは、文芸春秋の月刊誌「ノーサイド」が、創刊記念に編集したエッセイを一部修正したものです。

………………

中学校3年生の男の子がいた。

最初の始業式の日、

先生がホームルームで話をしていると、

その男の子は、すっと立ち上がって何も言わずに教室をでていった。

誰も理由は分らなかったが、

気分を悪くしたか、トイレにでも行ったのだろう、とみんな漠然と思っていた。

帰ってきた彼の手には、水かなみなみと入ったバケツが握られていた。

彼はそのまま自分の席に向かった。

そして、いきなり女生徒の頭から、水をぶっかけたのである。

他の女生徒の悲鳴が、教室に響き渡った。

水を掛けられた女生徒だけが黙ってうつむいている。

他の男子生徒は、「なんていうことをするんだ!」と、

彼に向って、一斉に罵声を浴びせかけた。

彼は、動じることなく、口を一文字に結び、黙ったまま前方を見つめている。

慌てた先生は、急いでその生徒を職員室に引っ張ってゆき、

「どうして、あんなひどい事をしたんだ?」と彼に尋ねた。

彼は「あの子が気に入らない」としか言わない。

後は何を聞かれても黙っていた。

・・・・・・・・・

明日(その2)は,ここからです。

季節は変わり、いつしか卒業式の日になった。

式が終わると、先生は彼にだけ一寸残るようにいった。

始業式の日のことをもう一度聞いてみようと思ったのである。

「なあ、おい。始業式の日に、どうしてあんなことをしたんだ。

俺にだけ教えてくれよ。一年間、お前をずっと見てきた。

お前は、絶対に、あんなことをする男じゃないよな?」‥

 

この結末は、明日…

今週も、みな様、健康に留意なさって‥「キュ」