134.感動する色々な家族像(第1話「野球、ごめんね」)

幼い頃に父が亡くなり、母は再婚もせずに僕を育ててくれた。

学もなく、技術も無かった母は、個人商店の手伝いみたいな仕事で生計を立てていた。

そてれも当時住んでいた土地は、まだ人情が残っていたので、何とか母子二人で質素に暮らしていた。

……………・・

娯楽をする余裕なんてなく、日曜日は母の手作り弁当を持って、近所の河原とかに遊びに行っていた。

給料をもらった次の日曜日には、クリームパンとコーラを買ってくれた。

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ある日、母が勤め先から、プロ野球のチケットを2枚貰って来た。

僕は、生まれて初めてのプロ野球観戦に興奮し、母はいつもより少しだけ豪華な弁当を作ってくれた。

野球場に着き、チケットを見せて入ろうとすると、係員に止められた。

母が貰ったのは、招待券ではなく、優待券だった。

……

チケット売り場で一人1000円ずつ払ってチケットを買わなければいけないと言われ、帰りの電車賃ぐらいしか持っていなかった俺達は、外のベンチで弁当を食べて帰った。

……

電車の中で、無言の母に「楽しかったよ」と言ったら、母は「母ちゃん、バカでごめんね」と言って涙を少しこぼした。

俺は、母に辛い思いをさせた貧乏と無学が本当に嫌になって一生懸命に勉強した。

新聞奨学生として大学まで進み、いっぱしの社会人になった。

結婚しても、母に孫を見せてやることも出来た。

母は本当に喜んでくれた。

…………

そんな母が去年の暮に亡くなった。

死ぬ前に、母は一度だけ目を覚まし、思い出したよう

「野球、ごめんね」と言った。

俺は「楽しかったよ」と言おうとしたが、

涙が溢れて最後まで声にならなかった。

 

明日の第2話は、「父親の宝物」です。

ここから始まります。

三年前に親父が死んだんだけど、

ほとんど遺産を整理し終えた後に、

親父が大事にしていた金庫があったんだよ。

うちは三人兄弟なんだけど、お袋も死んでしまい、

誰もその金庫の中身を知らなくてさ・・。

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九州地区の地震被害がこれ以上拡大しないことを祈りながら

今日も、素敵な一日をお過ごしくださいませ。

それでは、みなさま 「キュ」