読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

仕事を楽しむ(全4編)その2

【2】1987年2月某日

この日は、何時にもまして寒い日でした。

手がかじかんで、雑巾すら絞れない状態です。

しかし、スーパーバイザーがやってきて、

また煩いことをいうので休むこともできません。

・・・

しぶしぶ手を動かして白色の木馬を磨いていました。

しばらくして、隣のアトラクションを担当している仲間が休憩時間を知らせにやってきたので、一緒に休憩室に行き弁当を食べることにしました。

・・・

休憩室で家から持ってきた弁当を取り出す。

仲間が言いました。

「あ~あ、こんな寒い日ぐらい温かい弁当食べたいよね」

「確かにそうですね」

後ろから金田の声がしました。

振り向くと、弁当袋を持っているスーパーバイザーの金田が立っていました。

・・・

また煩いことを言われるのかと思ったら、

そばにすわって「その通りですよ」

と金田も弁当を食べ始めました。

「何かいい方法はないかな」

金田は本気で考えているようです。

・・・

増田は金田に言いました。

「金田さん、そんなに簡単に状況は変わらないさ。弁当が冷たいのは、当たり前じゃないか」

「そうかな。電子レンジを休憩室に置けばいいではないですか」

「あんな高価なモノ、家電売り場でしか見たことないよ。それに、たかが従業員のために会社が買うとあんた思ってるのかい」

当時の電子レンジはまだ高価なものでした。

・・・

増田は言葉を続けます。

「そんなことより、あんたは俺達をうまく使うのが仕事だろう。ヘタなこと言うと上から怒られるよ」

「そんなことないですよ。従業員が温かい弁当を食べて力が湧けば、より一層仕事がはかどる訳だし、会社にとっても望ましいことじゃないですか

明日(その3)はここからです。

それから数週間後、休憩室の片隅に電子レンジが置かれました

増田達は、温かい弁当を食べることが出来るようになりました。

初めて温かい弁当を食べることはできたものの、外では一度やんだ粉雪が、再び降り始めたようです。

このところ冷え込む夜が続き、水をまいても氷りと化してしまう状態でした。

同僚が言いました。

「風が吹くと氷が無くなるんだけどな」

「それは、もしかして活かせるかも」

増田は、今度は自ら進んで金田に相談することにしました。

金田に説明している最中に、同僚が後ろから口を挟みました。

「そうは言っても都合よく風は吹かないからな。

巨大な扇風機でもあれば別だけど・・・」

それから数日後。

パーク内に想像を絶する光景が広がりました。

数十機の業務用扇風機が各エリアに配置されているのです

さすがに増田はびっくりして金田に尋ねました。

「あんたは、どうしてここまでやるんだ。管理者でもそこまではなかなかやれないよ」

金田は答えました。

「ぼくは管理者である前に、ディズニーランドのキャストです

「キャスト?」

「そうです。キャストのやるべきことはゲストが、安心して楽しめる環境を作ること。だから従業員はみんなここではキャストなんです」・・・