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正直でなければ・・(全2編)その1

「商業や商人は、社会の発展に無くてはならない存在であり、商売から得られる利益は、武士の禄と等しく全く正当なものである」梅岩はこう述べて、封建の世の常識に対し、真っ向から切り結んだわけですが、「この主張が成立する為には、一つの大きな前提がある」と梅岩は説きます。

その利益が「正直」な方法によって、得たものでなくてはならないということです。

商いにおける正直の必要性を、梅岩は様々な場面で繰り返し説いています。

例えば「猫に鰹節の番」の例えを上げ、学者が商人の欲深さをなじったのに対して、正当な利を得ることが商人の道であるとすぐ反論した後で、梅岩は更に次のような実例を上げ、正直の必要性を強調しています。

・・・

ある大名の屋敷に出入りする二人の御用商人がいた。

他にも新しく取引を望む商人が現れたのを機に、担当役人が納入品の値段を比較してみたところ、二人の商人の納入金額は、新規参入を求める商人が、示す値段よりもずっと高いことが分かった。

役人が、さっそく二人の商人を呼びつけて、その理由を問いただすと、一人の商人はこう弁明した。

「私は、これまで御用を粗末にしたことは一度もありません。新しく出入りを願う商人は、最初は値段を安くして、損を出してでも納入の実績を作りたいものです。しかしながら、それでは後が続きません」

それに対して、もう一人の商人はこう説明しました

「おっしゃるとおりです。去年から死んだ父親に代わって。息子の私が品物を納めるようになりましたが、商いに不慣れなうえ資金も潤沢でない為、商品の仕入れが上手くいかず、取引先から高く売りつけられたのではないかと心配していたところです。理由はどうあれ、高い品物をお納めすることは、日頃からお買い上げ願っている、こちらのご恩を忘れることにほかなりません。しばらくは、これまでのお代で生活を維持しながら、家や家財道具等を処分して、父親の残した借金を清算し、その上で改めて商売を勤めさせていただきたいと思います」

この言い分を聞いて、この大名屋敷では前者の商人との取引を中止してしまった。

高利を取って来た責任を、新規商人に押し付けるような、その場逃れの詭弁(きべん)を弄したからである。

一方、後者の商人の方は、それまで通り出入りを許しただけでなく、父親の残したという借金返済のための資金まで融資してやった。

この商人の大名への忠義心、父親への孝行の気持ち、そして嘘やごまかしを言わない正直さ、誠実さを評価したからである・・。

 明日(その2)はここからです

こんなエピソードを紹介した上で、梅岩はこう述べます。

「あれこれと言葉を使って相手を言いくるめようとするのでは、良い商人とは言えません。何事もありのままにいうのが、良い商人なのです。自分に他人の誠実・不誠実が明らかなように、自分の誠実・不誠実を他人は、簡単に見抜くものです。