正直でなければ…(全2編)ラスト

こんなエピソードを紹介した上で、梅岩はこう述べます。

「あれこれと言葉を使って相手を言いくるめようとするのでは、良い商人とは言えません。何事もありのままにいうのが、良い商人なのです。自分に他人の誠実・不誠実が明らかなように、自分の誠実・不誠実を他人は、簡単に見抜くものです。

このことに気づかない人が多い。この原理を心得ていれば、言葉を飾らず、ありのままに言うのが常となるので、あいつは正直者だと人から信用され、その結果、よその倍売ることも可能になるのです。人に正直だと思われ、人から警戒されない人間でなくては、商人として決して成功はしないものです」

梅岩の答えを受けて、学者はこのように言います。

「世間では『商人と屏風はまっすぐに立たない』と言われていますが、これはどういうわけでしょうか」

当時、商人がさげすまれていた為に、この様な言葉が流布していたのでしょう。

梅岩はそれに対して、世間で言われていることは、間違った意味で伝わっていることが多いとした上で、こう述べています。

「屏風は少しにでも歪みがあれば畳まれず、この故に地面平らかならざれば、立たず。商人もそのごとく自然の正直無くしては、人と並び立ちて、通用なりがたし」

「屏風は少しでも歪みがあれば、たたむことは出来ない。この為床が平らでないと、立てることも難しくなる。商人もそのように、常に本心から正直でいなければ、人から信用を得て、共に仕事をしていくことは出来ない。」

正直かつ誠実であることは、商売を成功させるための第一級の条件である。

商いにあたって、甘言をもてあそび、表向きを飾ったり取り繕ったりしたところで、結局は上手くいかない。

正直であればこそ人から信用され、信用されれば、自ずとビジネスは、成功へと向かっていく。

正直という「徳」を心に据えてはじめて、商いが「商人道」になっていくのです。

こうした主張を、梅岩は何度も展開しているのです。(終わり)