長い「静」と急な「動」全3編(その2)
木村先生のお話に戻ります。
先生は日本人のコミュニュケーションの特質を、「長い静と急な動」とおっしゃっておられます。
初めは、ずっと静かにしているが、急に行動を起こすというのです。
代表例として「相撲」と「水戸黄門」を挙げていらっしゃいます。
相撲は、呼び出しを受けて力士が土俵に上がってから、塩をまいたり汗を拭いたりしながら仕切りを繰り返し、立ち会いとなってぶつかります。
実はこの「立ち会い」(勝負の開始)も世界に例を見ない、審判(行司)の号令によらない「あうんの呼吸」です。
この仕切りをしている三~四分は、一体誰のために、何のためにやっているのでしょうか。
毎日の稽古では、いちいち三回も塩をまかないで、どんどん立ち会いをして、ぶつかっています。
木村先生いわく、あの長い仕切りの時間に興奮しているのは、観戦者(あるいはテレビの前の視聴者)であると言われます。
まったりした、一寸長めの時間の後に、ものすごい勢いでぶつかる。
時には、一秒もかからないで勝負が決まる。
まさに、「長い静」と「急な動」です。
これが日本人にはたまらないのでしょう。
・・・
もう一つ、水戸黄門です。
テレビドラマとしてだけでも約40年間にわたって放映された、日本人が大好きな番組です。
視聴者は、結末がどのような「まとめ方」になるか、予想が付いているのに見てしまいます。
開始から五~六分すると、何か事件が起こります。
そのうち水戸のご老公御一同様は、何か変だということに薄々気付きますが、なぜか放置して、そのまま旅を続けます。
ですが心配はいりません。
「風車の弥七」が、抜かりなく内偵をしてくれています。
そしてそのレポートを、風車に付けて御一行様が泊まる旅籠の部屋に投げ入れてくれます。
直ぐに乗り込んで成敗するのかと思いきや、ご老公様は越後のちりめん問屋の隠居「光右衛門」等と名乗り、自ら内偵調査に乗り込むのです。
(ここら辺で八時半くらいでしょうか。
西洋人が見たら、イライラするはずです。
動かぬ証拠をつかむためです、あと十分程我慢してください)。
八時四五分過ぎに何が起こるかは、もう説明せずともお分かりでしょう。
黄門様に証拠を突き付けられて詰め寄られた悪代官は、急に逆ギレして「者ども出会え」の号令で大乱闘が繰り広げられます。
そして、三つ葉葵(あおい)の印籠を出して一件落着です。
ドラマ開始から四〇分くらいは静かに話が進むのですが、最後の二~三分の急な動きは、誤解を恐れずに言えば、これが日本人のコミュニュケーションの取り方です。
次回(その3)はまとめます。