26).「あなたへ」高倉健♪♪♪(全3編)その2

 ところで、この映画で興味深いのは、非常に芸達者で素晴らしい演技を披露している脇役陣の活躍です。

まず、地味ですが、倉島の同僚塚本和夫夫妻を演じる長塚京三と原田美枝子の実に温かくて淡々とした優しさが印象的です。

次に、旅の途中、飛騨高山の板蔵ドライブインで出会うビートたけし演じる杉野輝夫で、山頭火を論じて旅と放浪の違いを語るところがインテリ風のキャラバン仲間なのですが、車上荒らしとして逮捕されていきます。

旅と放浪の違いは、目的があるかないか、そして、帰る所があるかないかだと語り、山頭火の文庫本を倉島に残すのですが、何時にもない非常にまじめな役づくりに終始していく、軟らかく語りながらほろりとさせる語り口が実に良い。

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もう一人の旅での出会いは、草彅剛のイカ飯弁当の実演販売人・田宮祐司です。

車の故障を良いことにして、人の良い倉島(健さん)に京都から大阪まで送らせたばかりでなく、チャッカリと、料理に手伝いまでさせるのです。

イカを洗って下ごしらえをする高倉健の姿が傑作なのです。

憎めなくて、ついつい引っ張られて仕事に巻き込まれるのですが、更に一緒にと言われたのですが、妻の局留めの郵便受け取り機嫌が明日なので断ります。

しかし、その晩は付き合うと、仕事を止めたいと思うのだが、妻に男が出来てそれをハッキリさせるのが怖くてこの仕事を続けているのだと言う愚痴を聞く。

それをきいていた田宮の同僚の南原真一(佐藤浩市)が、「そう言うものを、引き受ける気持ちがなければ、こんな暮らしはやめた方が良い」と決然と助言するのですが、この南原は、後で分かるのですが、暗い過去を背負って、鬼籍に入った筈の隠れた人生を生きている。

※「鬼籍に入る」とは、死んで鬼籍に名を記入する。死亡すること。

南原は、うたた寝していた倉島の部屋を訪ねて来て、薄香で、散骨のために船の手配に困ったら、この人に頼めば良いとメモを渡します。

台風襲来の大嵐の日に、倉島は、薄香の港について、船の手配を頼むが、何処からも断れます。

夕食を食べる為に立ち寄った食堂で、南原から教えられた名前を言ってメモを見せると、娘・濱崎奈津子(綾瀬はるか)が「お爺ちゃんだ」と言う。

母の濱崎多恵子(余貴美子)が、メモをじっと眺めている。

その字は海難事故で死んだはずになっている夫、南原であることを母は確認する。

でも口には出せない。

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嵐の去った翌日、前日断られた件の船頭・大浦五郎(太滝秀治)に頼みに行くと、「天気の良い日に引き受けてくれる」という。

その夜、キャンピングカーの倉島に、夕食を運んできた多恵子が、娘と許婚(いいなずけ)の大浦卓也(三浦貴大)の写った写真を持って現われて、海で遭難死した夫が見て喜ぶであろう。

妻の散骨と同時に海に投げて欲しいと頼み、海だけに打ち込んでおれば良かったのに、夢を見て手を出した仕事で失敗して死んだと、夫の話をする。

その夫は、昨夜見た手紙の筆跡から生きていることを知っている。

辛いシーンでもあります。

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翌日、快晴の凪いだ美しい海に、五郎と卓也の船に乗って限界に出て、「久し振りに、綺麗な海ば見た」

という五郎の言葉を聞いて、倉島(高倉健)は、慈しむようにしっかりと洋子の遺骨を握りしめて舟橋から海に散骨する。

泡となって消えて行った人魚姫のように、真っ白な美しい泡のように、舞ながら沈んでいくのです。

「久し振りに、綺麗な海ばみた」という五郎(大滝秀治)のセリフに、高倉健は感動し、涙が止まらなかったとNHKの特番で話していました。

「これだけの言葉で、この映画の全てを言い表している」と感動していました。

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富山への帰途、倉島は、イカ飯弁当を売っている南原(佐藤浩市)を呼んで、多恵子から海に投げてくれと頼まれた写真を渡します。

現職の刑務所の指導技官である以上、違法行為は見逃せないので、既に、覚悟を決めて、塚本総務部長(長塚京三)から突き返されていた退職届を、平戸の郵便局から発想しており、「鳩になりました」と言って、去っていきます。

  ※(その3)は明日投稿させていただきます。

それでは みなさま 素敵な夜をお過ごしくださいませ。 「キュ」