日本一のパパ(全2編)その1

木村(仮名)さんは、3店舗のラーメン店を経営していました。

もともと、ある食堂の厨房で下働きをしていた木村さんにとって、自分の店を持つことは当初からの夢でした。

そして、念願かなって、1店舗目をオープンすることができました。

目新しさもあって、一時はそれなりの人気店になり、その勢いで続いて2店舗目、3店舗目をオープンさせました。

ところがその後、売上はいっこうに伸びず、それどころか次第に客数も段々減少していきました。

・・・

毎日、朝早く起きて仕込み、昼間は休みなく働き続け、スタッフが帰った後も深夜まで一人で片付け…。

我も忘れて、一生懸命に働いているにもかかわらず、毎月150万円前後の赤字を出し続ける状況にまで悪化してしまいました。

駅前でチラシを配ったり、お客様に割引チケットを配ったり、知人の家の壁にポスターを張ってもらったり、とにかく出来ることを見つけて、少しでも売上を伸ばす努力を続けました。

しかし、どんなに努力をしても、どんなに働いても、一向に店の状況がよくなる気配はありません。

次第に顔からは、笑顔が消え、いつも眉健間にしわを寄せていました。

自信も無くし、生気も無くなっていきました。

木村が帰宅すると、妻の幸子さんと幼い子が寝ています。

その横で静かに着がえていると、目を覚ました幸子さんが小さな声でいつも言います。

「今日も遅くまで、お疲れさま…」

「・・・まあな・・」

そんな時、木村さんは何と返事していいのかわからず、いつも力のない返事になってしまいます。

「妻に心の内を話したところで、どうにもならない。自分ひとりで解決するしかない…」

勿論、夫の苦しい状況は、妻の幸子さんもうすうす感じていたのですが、「お疲れ様」と言う以外、伝える言葉がありませんでした。

幸子さんも、なかなか寝付けない日々を過ごしていたのです。

業績がどんどん下がっていく状況に対し、何らかの手を打つことが出来ない歯がゆさに苦しみながら苦悶をしていました。

そんなある日・・・木村さんが、いつものように明け方になって家に帰ると、寝ている幸子さんの横で、子供が起きていました。

何気なく、そっと抱きあげました。

そして、あやそうとすると、やっと片言で話し始めたばかりの子供が、手をバタバタさせながら、必死になって自分に何かを伝えようとしています。

「・・ぱぱ」

何を言っているのか、初めはよくわかりませんでした。

「ん?どうしたの?」声を掛けますが、

「・・んち、ぱぱ」「・・んち、ぱぱ」

それでも、子供は同じ言葉を何度も言っているようです。

「な~に?・・」

「・・いちんちの・・ぱぱ」

「・・いちんちのぱぱ」

こちらの顔をじっとみて、一生懸命何かを伝えようとしています。

「何の、ぱぱ?」

そして、とうとう、子供の言葉を、はっきりと聞き取ることができました。

明日(その2)はここからです。

「にほんいちのぱぱ」

「にほんいちのぱぱ」「!」「!」

思わず、木村さんの目に涙があふれ、頬を伝わって流れていきました。

「・・・」子供を抱きしめながらただ泣きました。

それまで、必死に耐えていた「心のたが」が外れたように、あふれてくる悔しさを我慢することが出来なくなりました。

悔しい・・なんと、自分は情けない人間なのであろう。

子供の言葉に素直に「そうだよ」と、

うなずけない自分が・・本当に悔しい。

日本一どころか、明日食べていけるかどうかもわからない。

この子は、それでも自分のことを、日本一と思っている・・」

今日は、「父の日」ですね。

私は、自分を父親にしてくれた家族に感謝したいと思っています。。