素直な心(パート2) 道理を知る(全3編)その3+α

播磨守のこの高見に更に付け加えるべきことは、「盗み」が多くなればさらに物価も上がるということです。

つまり、取り締まりの役人も増やし、家々もカギをふやし、というようなことになれば、いっそう物入りとなって、めいめいの商う物の値段が、更に結び付くことでしょう。

即ち、治安が乱れれば、ますます物価が高くなるわけです。

今日の我々も、物価の問題について、いろいろと悩まされていますが、お互いに播磨守のように道理を知り、遠いおもんばかりを持って、物事を考えることも、一面において大切なことではないかと思います。

そしてそのためにも、まずお互いに常に日頃から、「素直な心」というものを十分養い高めて、常に「素直な心」が働くよう、心がけていくことが、大切だと思います。

(終わり)

・・・・・明日はここからです・・・・・

ある大工さんの引退(全3編)その1

引退寸前の大工さんの話である。

彼は、もう引退しようと思っていた。

もう歳だし、これまで十分に仕事をしてきて、老後の蓄えもあるし、妻と一緒にのんびり暮らそうと思っていたのである。

雇い主は、そんな彼の気持ちを知りながら、「もう一軒だけ、家を建ててくれないか」と頼んだ。

「またですか・・・」大工はため息をついた。

前回の仕事では、自分はベストを尽くして納得できる家を建て、お客さんにも大変喜んでもらえた。

これが最後だと思って、全身全霊を籠めたのである。

しかし、もう今は、やる気もすっかり抜けてしまっている。

・・・

「そこを何とか、後一軒だけ、頼むよ。君が好きなようにしていいから」長年お世話になった雇い主の執拗な頼みである。

大工さんは一応、渋々招致した。

が、どうしても真剣に仕事をする気になれなかった

それでも、長年の習慣で体は動き、頼まれた家は期日には完成した。

しかし、言い材料は使わず、手も抜いたので、自分でもとても良い家だとは思えなかった。

完成の知らせを聞くと、雇い主がやって来てその家の玄関のキーを渡して言った。

「これまでよく働いてくれた。この家は、引退する君へ私からのプレゼントだ」大工さんは、大きなショックを受けた。そして、ひどく恥かしく思った。

「自分の家を建てると知っていれば、多分もっと頑張っていただろう」と思ったからである。・・・