16)天使のお通り(全2編)その2
また、栃東さんに登場願います。
栃東が、十五日目に勝った時と、その後初めて優勝決定戦に臨んだ時の話をします。
栃東の頬に両目からあふれた涙がつたって落ちた。
「嬉しいです…」後は言葉になりませんでした。
最終日に、千代大海の容赦ない突っ張りを顔面に浴び続けた。
速射砲のように27連発です。
「顔を上げないことだけを考えた」グッと顎を引いてひたすら我慢し、今度は反撃に出ました。
右からおっつけて、左から突く。
相手の体制が崩れたところを、もろ手で押し出した。
腫れあがった顔から血が噴き出している。
突かれても、突かれても、引き下がらない栃東の態度に、観客は大満足している。
ここまでの道のりは険しかった。
・・・栃東は、以前このブログでも紹介しましたように、これまで左右に逃げて勝つ戦法を批判され、何度も三賞を逃しています。
…・・
いよいよ優勝決定戦の相撲で、初日から「封印」していた伝家の宝刀を抜いた。
立会いで頭からガッチリ当たり、左へサット変わる。
アットいう間の突き落としである。
頭の低すぎた千代大海は、前のめりになって、バッタリ手をついた。
今回の引き技に対しては、一つ前の大相撲のせいか、何の批判も出ない。
それより、あまりの鮮やかさに、観客の皆さんは、思わず息を飲み、静寂さが管内を覆いました。
これも「天使のお通り」である。
一つ数えるかどうか、というホンの一瞬、観客は息を止めた。
やがて、天をつんざく大拍手である。
感動的な局面に遭遇すると、「天使のお通り」に出くわすことができる。
そして、心を静めることになる。
そんな体験を、出来るだけ多く積み重ねて、生きていきたいものです。