49)モミの木(♪♪♪全2編)その1

■未来よりも、今日の幸せを見る

森の中に、小さなモミの木がありました。

「早く大きくなりたいなあ」

モミの木には、輝く陽の光も、空を流れる綺麗な雲も、何一つ目に入りません。

いつも思うのは、大きくなるだけ。お日様がそれを見て言いました。

「今の若さを楽しみなさい。大きくなるまでを、味わいなさい」

でもモミの木には、お日様のいう意味が、少しも分かりませんでした。

クリスマスが近づくと、若い木がどんどん切り倒され、どこかへ運ばれて行きました。

「あの木達、どこへ行くのだろう?」スズメが答えてくれました。

「クリスマスツリーになるのさ。

金色の人形やローソクで、きれいに飾り付けられるのだよ」

モミの木は、それを思うと、じっとしてはいられません。

「僕も早くそうなりたいなあ」お日様は、又云いました。

「今の自分を楽しみなさい、この広々とした森で、その生き生きした若さを楽しみなさい」

やがて、モミの木は大きくなり、若く美しい木になりました。

「この木は、クリスマスツリーがぴったりだ!」

モミの木は、木こりに切られて町へ行き、ある家に買われて行きました。

広間に置かれ、綺麗な飾りや、お菓子やローソクを沢山つけられ、一番てっぺんには、金ぴかの星がつけられました。

「なんて、素晴らしいのだろう」

モミの木は、これからもっと良いことが、起きるに違いないとドキドキしました。

広間に子供達が大勢やってきました。

モミの木の周りを走り回って、喜んでいます。

モミの木は、自分が人気者になったような気がしました。

「わい、プレゼントだ!」

子供達は、下げてあったプレゼントを片っ端から、もぎ取って行きました。

ローソクが、燃え尽きた頃には、飾りやお菓子も、皆取り外されてしまいました。

もう、誰ひとり、モミの木を見る人は、いなくなりました。

次の朝、モミの木は屋根裏部屋に入れられました。

暗くて、寒くて一人ぽっち、やってくるのは、ネズミだけです。

ネズミはモミの木に言いました。

「何か、話してよ!」

 その時、モミの木が思い浮かべたのは、昔いた森の中でした。

お日様が照らし、小鳥が歌う森の中。

話しているうちに、モミの木は、その頃の幸せを、はっきりと、感じて来るのでした。

ある日、モミの木は庭に引きずり出されました。

「もしかしたら、これから、いいことが始まるのかもしれない」

モミの木は喜びました。

しかし、男がやってきて、モミの木を斧でたたき割りました。

薪になったモミの木は、ぱちぱちと燃えながら、思い出していました。

森の中の輝く夏の日のこと、星がきらめく冬の日のこと。

「ああ、あの時に、もっと楽しんでおけばよかったなあ」

モミの木は、とうとう燃え尽きてしまいました。

・・・

みなさま おはようございます。

今週も 宜しくお願いいたします。 「キュ」