時間を守ること(全3編)その2
昔の作家は、そんなことをしないわけですよ。
夏目漱石でも泉鏡花でも、あるいは森鴎外でも島崎藤村でも、自分の生活で、たとえ女狂いしていようと、会合の時に時間に遅れるなどということはしていない。
みんなきちんとしていますよ。
自分は何をやったっていい。
だけど他人との接触においては、一人の社会人としてふるまわなければならないわけだ。
そいうことができない人間は、結局、小説は書けないんだよ。
いいものは。
なぜといえば、小説の中に出てくる人間は社会人を書くわけなのだから。
だから、間が抜けて、かすみ食っているような人間ばかりが出てくることになる。
一時は、その作家の売り出した時の名前で愛読者は読むでしょうけれども、我々が読めば、おかしな人間ばかりが出てくることになってしまう。
『男の作法』新潮文庫 □時間を守ること
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明日(その3)はここからです。
池波正太郎氏は、「男の作法」として、「時間厳守」とともに、「食事の作法」についても書いています。