時間を守ること(全3編)その1
池波正太郎さんは、「男の作法」の中で、時間を守ることの重要性を次のように表現している。
・・・
この「時間」の問題というのは、一つ大事なことがある。
それは、自分の人生の一つであると同時に、他人の人生も一つであるということだ。
自分と他人のつきあいでもって、世の中は成り立っているんだからね。
だから「時間がいかに貴重なものか」ということを知っていれば、他人に、時間の上において迷惑をかけることは、非常に恥ずべきことなんだ。
われわれ作家の仲間で、年に二回ある会合に、必ず遅れて来るのが、二人いるんだよ。
作家が、五人集まるのだけど、いつも遅れるのは同じ二人。
Aという人は都心から遠いところにいるが、決して遅れない。
タクシーだのハイヤーを使うと、途中で渋滞したりする恐れがあるから、電車で一時間前に着いて、三十分ぐらいその辺りでショッピングしたり本を見たりして、定刻三十分前に来る。
Bも、だいたい同じようなこと。
他の人に、迷惑をかけてはいけないという気があるんだ。
ところが、あとの二人のうちの一人は、絶対に間に合ったためしがない。
たまに遅れて来るのはわかるよ。
そうではなく、それが毎回なんだ。
こういう人は、自分が持っている時間、自分の生きている時間の貴重さも、わかっていないんじゃないかと思いますね。
そういうことにルーズなのが、作家の特権であるというのは大間違いだ。
作家がそういうふうなものだとなってきたのは、大体戦後からです。
明日(その2)はここからです。
昔の作家は、そんなことをしないわけですよ。
夏目漱石でも泉鏡花でも、あるいは森鴎外でも島崎藤村でも、自分の生活で、たとえ女狂いしていようと、会合の時に時間に遅れるなどということはしていない・・・